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東京地方裁判所 昭和49年(ワ)7482号 判決 1976年5月27日

原告 東原末子

右訴訟代理人弁護士 久保利英明

同 内田晴康

同 飯田隆

被告 野村薫

右訴訟代理人弁護士 岡本勝

主文

一  被告は原告に対し、別紙物件目録記載の土地、建物を明渡し、かつ、昭和四九年八月一六日以降その明渡しがすむまで一か月金七万五〇〇〇円の割合による金員の支払いをせよ。

二  訴訟費用は被告の負担とする。

三  この判決は第一項中金員の支払いを命ずる部分に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の申立

(原告)

主文一、二項と同旨の判決と、主文一項につき仮執行の宣言を求めた。

(被告)

請求棄却、訴訟費用は原告の負担との判決を求めた。

第二当事者の主張

(原告)

一  請求の原因

(一) 別紙物件目録(一)(1)記載の土地は原告の所有であり、原告は同土地上に別紙物件目録(二)(1)、(2)記載の二棟の建物(以下同目録(1)の建物を「第一建物」、(2)の建物を「第二建物」という)を所有している。

(二) 原告は被告に対し、昭和四八年四月二五日第二建物のうち別紙物件目録(二)(3)記載部分(以下「本件建物部分」という)を、始期を同年五月一日、賃料を一か月七万五〇〇〇円、期間を二年と定め賃貸した。

右賃貸借契約に際し、次のとおり約定した。

1 庭の使用は、近隣にめいわくをかけないようなすこと。

2 裏の物置および隣のアパートの入口の土間の一部は、他の入居者にめいわくをかけないように使用すること。

(三) 第一建物と第二建物との間には、通路兼中庭として三三・八平方米の空地(別紙物件目録(一)(2)記載の土地、以下「本件土地」という)があり、第一、第二建物とも共同住宅(アパート)として賃貸中のところ、被告との間で右賃貸借契約当時、第一、第二建物に入居していた居住者らは、本件土地を通路として利用して、その東西両出入口を通行していた。

(四) 然るに、被告は入居後次のような行為をした。

1 昭和四八年八月一日ころから、右賃貸借契約の約定に反し、本件土地内の東側出入口への通り口に、木片、植木鉢、火鉢等を置き、他のアパート居住者の通行を妨害し、原告は被告にこれを撤去するよう再三にわたって求めたが被告はこれを拒絶した。

2 原告は昭和四八年九月六日、被告を相手方として、東京北簡易裁判所に妨害物撤去請求の訴を提起したが、被告はこの請求にも応じなかった。

3 その後も被告は滝ノ川消防署から、火災予防の観点から、右妨害物の撤去を要求されたがこれにも応じないばかりでなく、木材、脚立、ベニヤ板、スレートなどを積み重ねて、右通り口の通行を困難にした。

4 更に、別紙物件目録(二)(4)記載の建物部分(以下「第一建物出入口部分」という)に雑多な道具類を置いてこれを占有した。

5 また、被告は昭和四八年一〇月三〇日公道に面した出入口に「……東原末子は不良不動産と結託して金とコネで利害を背景にひくつな策動、強迫をくりかえして理不尽な言いがかりを捏造して正論を屈伏しようとしているものであり……」と原告の名誉を著しくそこなう文書を掲示した。

6 その後も、アパートの他の居住者に対して嫌がらせをし、特に被告と同じ棟に住む訴外津埜に対し、同訴外人方の出入口を植木や大きなポリバケツをもって閉鎖した。

7 被告のこれらの行為のため、アパート居住者の半数に当る訴外佐藤みや子、同丹尾和秋、同阿部昭夫が被告のアパートを出て他に転居した。

(五) 被告の以上の行為は、前記賃貸借契約の約定に違反するものであり、また賃貸借契約における信頼関係を破壊するものである。

(六) そこで原告は被告に対し、昭和四九年八月一五日到達した書面により、右賃貸借契約を解除する旨の意思表示をし、これによって、本件建物部分に対する右賃貸借契約は終了した。

よってその明渡しを求めると共に、右解除の翌日である昭和四八年八月一六日以降その明渡しがすむまで賃料相当の一か月七万五〇〇〇円の割合による損害金の支払いを求める。

(七) 仮に右解除の意思表示が効力を有しないとしても、右賃貸借契約は次の事由により終了した。

1 右賃貸借契約の約定期間は、昭和五〇年四月二四日に満了すべきところ、原告は昭和四九年一〇月二六日被告に対し更新拒絶の意思表示をし、そのころ被告に到達した。

2 右更新拒絶の意思表示は、次のとおり正当な事由があり、有効である。

すなわち、原告および原告の夫寿次郎は、昭和四八年五月ころより、東京都杉並区西荻北三ノ一〇ノ一三の原告ら長男功宅に、同人が結婚するまでの約束で同居中のところ、同人は昭和五〇年九月二七日訴外田中ふみ子と結婚した。そのため、原告夫婦は長男功宅から出て、元来居住していた本件建物部分に居住する必要を生ずるに至った。長男功宅は、新婚家庭のために建築したものであって、原告夫婦を含めた四人が居住するには狭小に過ぎ、長男夫婦の円満な家庭生活のためにも原告夫婦は長男夫婦と別居して被告が居住する本件建物部分に居住すべき必要性が高い。原告が住むべき家がなく苦しんでいるとき、被告がその長男夫婦と別居し、本件建物部分に居住していることはまことに不合理と言わざるを得ない。

3 以上のとおりであるから、原告の更新拒絶の意思表示には正当な事由があり、かつ、期間満了後も原告は被告の使用に異議を述べて本訴を継続しているのであるから、借家法二条に定めるところにより、昭和五〇年四月二日限り賃貸借契約は終了した。

(八) 被告は何らの権原なく、不法に本件土地および第一建物出入口部分を占有している。よってその明渡しを求める。

二  被告の抗弁および主張に対する認否

被告の抗弁および主張の事実中(一)1のとおり新聞広告がなされた事実は認める。右広告は訴外三幸不動産がなしたものである。その余の事実はすべて否認ないし争う。

(被告)

一  請求原因事実に対する認否

(一) 請求原因(一)の事実は認める。

(二) 同(二)の事実中、本件建物部分につき、被告が原告から賃借した事実は認める。

右賃貸借契約が成立したのは、昭和四八年四月二〇日である。賃貸借期間については定めがなく、長く借りる約束であった。本件建物部分についての約定賃料は一か月三万五〇〇〇円であった。

(三) 同(三)の事実は否認する。

(四) 同(四)1の事実中、主張場所に主張の物のうち資材用木片数本を置いたことおよび原告の撤去の要求に応じなかったことは認める。その余は争う。

同2の事実は認める。不当な訴の提起であるから被告はこれに応訴し争った。

同3の事実中、滝ノ川消防署から撤去を求められたことは否認する。被告が主張の物を置いたことは認める。その余は争う。

同4の事実は認める。

同5の事実中、主張のような掲示をしたことは認める。しかし、右は公道に面せず、庭に面した場所に掲示したに過ぎない。

同6、7の事実はすべて否認する。却って被告の方が嫌がらせをされている。

(五) 同(五)はすべて争う。

(六) 同(六)の事実中、主張のとおりの意思表示のあったことは認める。その余は争う。

(七) 同(七)の事実中、主張のとおりの意思表示のあったことは認める。その余の事実はすべて否認する。賃貸借契約にあたり、期間の定めはなく原告との間で長く借りる約束であった。

(八) 同(八)の事実中、被告が主張の土地、建物部分を占有している事実は認める。不法占有であるとの点は争う。

二  抗弁および主張

(一) 被告は、原告から本件建物部分を賃借した際、同時に、本件建物部分の庭二八・八平方米(別紙物件目録(一)(2)記載の土地を含む)、裏出入口にある物置、および第一建物出入口部分をも併せ賃借した。すなわち、

1 被告は、昭和四八年四月一〇日の朝日新聞広告欄に掲載されていた広告により本件建物部分が賃貸物件であることを知った。同広告には「車庫付」との記載があり、被告は車庫を必要としていたので原告に対しまずこの点を確めたところ、原告から車庫を使用し得ることは間違いない旨の答を得た。

2 そこで被告は原告と交渉を重ね、その間特に庭の使用について協議した。

右協議の過程において被告は、被告の荷物および自動車の置場として、庭を現状のままとするのでは不適当であるので次の四項を要求した。

(1) 公道側ブロック塀を壊して表門を併設し、これに鉄引戸をつける。(現在裏門につけてある鉄引戸を表へ移築する。)

(2) 庭の東南隅に巾一米長さ三・六米(二間)の物置小屋を建てる。

(3) 右物置小屋の軒さきを利用して、二間物木材を集積するための数段の枕柵を構築する。

(4) 裏門にある鉄引戸を撤去したあとには、搬出入口として木戸をつける。

これに対し、原告は最初消極的な態度を示したが、結局次のように提案して来た。

(1) 被告の申入条項(1)は承諾する。

(2) 庭に作る物置小屋をアパートの窓の東の範囲で短く建てること。

(3) その代りとして、裏出入口にある物置を賃貸借の範囲に入れる。

被告は、右提案を検討した結果、賃料を一か月七万円とすることでこれを了承し、同月二〇日に右条項に従って賃貸借契約をすることを合意した。

3 ところが、同日契約するに際し、原告から、右条項に対し次のとおり変更の申入れがあり、被告はこれを承諾した。

(1) 鉄引戸を、裏門に既設のものはそのままとし、表門には別に新設する。

(2) 物置小屋を新設することは取り止め、その代りとして、第一建物の入口土間の右半分(三尺の間)を賃貸借契約の範囲に加える。

(3) 賃料を一か月七万五〇〇〇円とする。

4 以上の経過を経て、同日被告は原告との間で、口頭により、次のとおり賃貸借契約をなした。

(1) 賃貸物件

(イ) 本件建物部分

(ロ) Ⅰ 第一建物と第二建物の中間の庭二八・八平方米

Ⅱ 第二建物の出入口にある物置

Ⅲ 第一建物の入口にある土間のうち右側三尺の部分

(2) 賃料

右賃貸物件(イ)については一か月三万五〇〇〇円、同(ロ)については一か月四万円。

(3) 賃貸期間

出来る限り長く借りる。

(4) その他の特約

庭を車庫兼物置場として使用するため、表公道側にも鉄引戸をそなえた出入口を新設する。

この費用は原告が負担する。

被告は礼金として二〇万円を支払う。

(二) 以上のとおりであるから、被告は本件土地および第一建物出入口部分は、いずれも賃借権に基いて正当に占有しているものである。

(三) また、右土地、建物出入口部分の占有は、右賃貸借契約の趣旨に従ってなしているものであるから、何ら、本件建物部分の賃貸借契約を解除すべき債務不履行は存在しない。

第三証拠の提出、援用≪省略≫

理由

一  被告が原告との間の賃貸借契約に基いて、本件建物部分の占有をはじめ、現にこれを居住の用に供して占有していること、並びに被告が本件土地および第一建物出入口部分を占有していることは当事者間に争いがない。

二  ≪証拠省略≫によると、被告が本件土地を、自動車置場および資材等の置場として占有し、第一建物出入口部分を、道具類等の置場として占有している事実が認められ、右認定に反する証拠は見当らない。

三  まず、被告の本件土地および第一建物出入口部分に対する占有権原について当事者間に争いがあるのでこの点について検討する。

被告は、被告が原告より本件建物部分を賃借した際、本件土地および第一建物出入口部分を、第二建物裏口にある物置と共に、車庫および資材置場として、賃料一か月四万円と定めて賃借したもので、賃借権に基き被告が専用し得べきものである旨主張する。

≪証拠省略≫によると、被告の抗弁および主張(一)1ないし4の各事実にそう趣旨の供述がある。

しかしながら、≪証拠省略≫により、原告と被告との間の賃貸借の合意の内容を証する書面として作成されたものであると認められる甲第一号証によると、賃貸借の目的物としては本件建物部分のみが表示されており、賃料は単に一か月七万五〇〇〇円と記載されているに過ぎないこと、本件土地および第一建物入口部分については、何らこれを本件建物部分と別個に賃貸借契約の目的とする旨の記載はなく、単にその使用について、近隣或いは他の入居者に迷惑をかけないことを定めているに過ぎないことが認められる。

また、本件建物部分が車庫付き賃貸建物として、当初より賃料一か月八万円として朝日新聞の広告欄に掲載されたことは当事者間に争いがない事実であり、≪証拠省略≫によると、第二建物のうち本件建物部分を除いた二階の六畳二間と四・五畳およびダイニングキッチンの部分は、昭和四八年五月当時訴外鶴島に賃貸されていたが、その賃料が当時三万八〇〇〇円位であったことが認められる。

以上の事実に≪証拠省略≫を併せ勘案すると、≪証拠省略≫中前記被告の主張にそう部分の供述は到底措信できないものというべきである。

乙第二号証の一については、その原本の存在成立について争いのあるところ、その存在、成立について被告本人尋問の結果も、前同様の理由で措信し難い。

そして、他の証拠を検討しても、他に被告が主張するように本件土地および第一建物出入口部分につき、本件建物部分に対する賃貸借契約と別に、賃貸借契約が成立したものと認めるに足りる証拠は見当らない。

以上のとおりであるから、被告は本件土地および第一建物出入口部分につき、その主張のように独立した賃貸借契約に基く占有権原を有するものとは認め難く、本件建物部分に対する賃貸借契約の範囲内でその使用が認められていたものというのほかない。

四  そこで債務不履行の点について検討する。

前記甲第一号証によると、本件建物部分の賃貸借契約に際し、特に本件土地部分につき近隣に迷惑がかからないように使用すべきこと、および第一建物出入口部分を他の居住者の迷惑にならないように使用すべきことを特に定めたことが認められ、≪証拠省略≫によると、本件建物の賃貸借契約に際し、被告の自動車を本件土地に出し入れする便宜上、公道に面した部分のブロック塀を一部取りこわして、その部分に鉄製の引戸による出入口を新設したこと、被告はその息子と共に室内装飾の営業をし、資材、運搬用自動車があって、その置場を必要としていたこと、の各事実が認められ、本件建物につき、朝日新聞紙上に、「車庫付」の賃貸物件として広告されていたことは当事者間に争いがない事実であって、これらの事実からすると、被告は、通常一般の賃貸借契約の場合以上に、前記賃貸借契約に伴う特約により、本件建物部分の賃貸借契約に附随して、本件土地を自動車置場および資材置場として、第一建物出入口部分を道具類等置場として使用することが認められていたものと認められる。

しかし、≪証拠省略≫によると、第一建物と第二建物は二米余の間隔で東西に平行して一区画の敷地内に建てられ、被告に賃貸するまでは東側私道に面した側に鉄引戸と鉄製のくぐり戸が設けられ、西側公道に面した側に、敷地南北両角近くに出入口が設けられていたほかは敷地の周囲はすべてブロック塀で囲まれていたこと、第一建物、第二建物共に玄関は西側公道に面した方に設けられていたが、東側には両建物共に裏出入口が設けられていたこと、第一建物には被告が本件建物部分を賃借した当時七世帯の賃借人が居住しており(以下「他のアパート居住者」という)、第二建物二階に賃借人として訴外鶴島が居住しており、訴外鶴島を除くこれらの居住者は、主として西側公道に通ずる出入口を使用していたが、銭湯や、国鉄田端駅方面への買物のための近道として東側出入口を使用し、特に第二建物の二階に居住していた訴外鶴島(その後訴外津埜正典が居住)にとっては第二建物の裏出入口がその出入口となっており、同訴外人にとっては東側私道に面した出入口が生活上の出入口になっていたこと、本件土地部分は右居住者らにとって、表出入口から裏出入口への通り抜け、第一建物西側にあった物干場への通行、窓から物を落したときこれを回収するため、および非常の際の避難用通路としてその通行が必要とされていたこと、第一建物出入口部分は、同建物出入口(玄関)の土間の一部で、同建物に居住する七世帯の人達が日常出入のため通行する場所の一部であり、かつ同土間の玄関より入って右側壁奥の壁面に電気ブレーカーが設置してあって、右居住者によって使用されていたことの各事実が認められるのであって、本件土地および第一建物出入口部分の使用も、当然右居住者らの右のような使用を妨げない範囲内でのみ許されるべきもので、右賃貸借契約の際原告もその旨被告に制限してこれを許容し被告もこれを了承していたもので、前記甲第一号証中、近隣および居住者に迷惑をかけないよう使用する旨の記載も右の趣旨を定めたものと認められる。≪証拠判断省略≫

次に、被告の本件土地および第一建物出入口部分の使用状況についてみるに、≪証拠省略≫によると次のとおりの事実を認めることができる。

被告は、本件建物部分を賃借してこれに移転した後間もなく、本件土地内に敷石を敷設し、ここに自動車(小型貨物自動車ハイエースバン)を駐車せしめ、東側私道に面した出入口付近に資材用木材等を置き、第一建物出入口部分に雑然と道具類を置くようになった。そのため他のアパート居住者は本件土地を通行することが困難となり、東側出入口を通って私道に出ることができなくなると共に第一建物出入口部分の通行も支障を生ずるようになったため原告に苦情を申し入れ、右資材等の取り除きを要求し、改められなかったため昭和四八年八月ころ他のアパート居住者らが原告と共に被告方を訪れ、直接被告に右取除きを要求しようとしたが被告は話合いを拒否し、これに応じようとしなかった。そこで原告は困却のうえ、滝野川警察署に相談に行き、同警察署係官から被告を説得して貰うよう試みたが被告はこれにも応ぜず、またアパート住居者の申出により、同年九月一三日付をもって滝野川消防署は原告に対し、本件土地および第一建物出入口部分に置いてある資材等の取除きを求めるに至り、これに基いて原告は被告にこれを要求したが同様拒否された。これより先、原告は被告が右資材等の取除きに応じないため、弁護士亀井忠夫らに依頼して、昭和四八年九月六日、東京北簡易裁判所に妨害物撤去の訴を提起したが被告は、正当な占有権原があるとしてこれに応ぜず抗争し(この事実は当事者間に争いがない)、また原告の右要求が不当である旨原告を強く非難した文書を東側出入口附近に掲示した。被告はその後ますます東側出入口部分の資材等の量を増し、第一建物出入口部分の道具類を置くことを改めなかったため、他のアパート居住者の東西両出入口間の通り抜けは全く不可能となり、第一建物裏口から東側出入口への通行は約五一糎巾の極めて狭い空隙を通り抜けかつ鉄引戸を引いて出入りできる状態となり、第一建物出入口部分にある電気ブレーカーは、同所に置いてある道具類を取り除かなければ操作できない状態が継続するに至った。そのため他のアパート居住者のうち訴外佐藤みや子、同阿部昭夫、同丹尾和秋などは、昭和四九年五月ごろから、右が改善されないとの理由で相次で賃貸借契約を解除して立退くに至り、第二建物二階の居住者訴外津埜は被告に同建物裏入口を塞がれたとして警察官の出動を求めるなどの紛争が生じた。

以上のとおり認められ(る。)≪証拠判断省略≫

右認定した事実に基いて判断すると、被告が本件土地内に小型貨物自動車を駐車せしめたこと自体は、原告との間の本件建物部分に対する賃貸借契約の際認められていたのであって、これをもって債務不履行ということはできない。しかし乍ら、前認定のとおり、本件土地が他のアパート居住者の共用に供せられていたのであるから、右車両を駐車せしめるについても、できる限りこれを妨げないような位置、状態で駐車するよう配慮すべきであるのに、本件土地を排他的に使用し得べきものとして何らそれらの配慮をしなかった点において債務不履行の責を問われるべきものと考えられる。また、東側私道への出入口部分に資材等を積み上げた点および第一建物出入口部分に道具類等を置いた点は、前認定のとおり、多少の量を、他のアパート居住者の使用に支障を生じない範囲内で認められていたものであるところ、被告は明らかにこれに違反してなしたものというべきである。

そして、被告は原告および他のアパート居住者の再三にわたる改善の要求を一切拒否し、長期間にわたってこれを継続しているもので、このような被告の行為は、その用法に反し、賃貸借契約における信頼関係を破壊するもので賃貸人である原告において賃貸借契約を解除するに足りる債務不履行ということができる。

五  原告が、昭和四九年八月一五日被告に到達した書面により被告に対し、債務不履行を理由として、本件建物部分の賃貸借契約を解除する旨の意思表示をしたことは当事者間に争いがない。

六  してみると、原告の右解除の意思表示は理由があり、右意思表示によって、本件建物部分に対する賃貸借契約は終了したものというべく、また、これによって被告は本件土地および第一建物出入口部分についても何らの占有権原を有しないことになったものというべきである。

七  よって、被告に対し、本件建物部分並びに本件土地および第一建物部分の明渡しと、右契約解除の翌日である昭和四九年八月一六日以降その明渡しがすむまで、賃料相当の一か月七万五〇〇〇円の割合による損害金の支払いを求める原告の請求は理由がある。

八  以上のとおりであるから、原告の主たる請求を認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用し、仮執行宣言の申立について、損害金の支払いを命ずる部分についてのみ相当と認めて民事訴訟法一九六条に基いてこれを付し、その余は相当でないと思料するのでこれを付さない。

(裁判官 川上正俊)

<以下省略>

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